うんこみたいな日々

を過ごす。

スプラッシュうんこ

深夜0時。大の男が部屋で一人悶まくる。

 

虫が出た。見たことのない虫。触覚が異常に長い。飛んでいる。

 

情けない。1年前まで住んでいたシェアハウスではゴキブリが2日に1体は出現するという通常イベントと化して極度な虫嫌いも流石に解消されたかと思っていた。出現する度に悲鳴を上げて、何事かと住民全員が駆けつけ迷惑をかけてしまう事も多々あった。

 

さらに遡る事一年前、一人暮らしをしていた頃。朝シャワーを浴びる前に全裸でユニットバスのトイレで用をたそうしている最中にゴキブリを発見。反射的に立ち上がって、体を回転させたその瞬間。緩んだ穴から放たれたウ○コがスプラトゥーンのペイントのように「ペチャッ」と壁にへばりついてしまった。

 

小学生が漏らしたとかの話ではない。夢いっぱいに上京して一人暮らししている青年が朝ドラの放送しているような時間帯に全裸で自らのウ○コを見て落胆する。この後、児童館に出勤して子供達と接するんだぞ。こんなカオスな景色があってたまるのか。

 

そもそも、ゴキブリが出た際の精神状態で駆除する思考回路など働かない。正気を失った人間はまず悶える事しかできないのだ。

 

ゴキブリが現れたら決まって友達に電話する事にしている。電話して何になる。いやいや。信頼のおける人間と会話している状態はそれだけで心強い。さらに正常な思考回路を失った自分に代わり、「触るのは嫌」だの、「暴れ苦しむ姿は見たくない」だの、コチラの要望を提示した上で最適な駆除プランを共に模索していただく。

 

「も、もしもしぃぃぃい!!!」
「ゴキブリだね。一旦落ち着こう。」

 

いつもSOSに応じてくれる彼は第一声から俺の置かれている状況を理解できるまでになった。もはやゴキブリ相談窓口のプロフェッショナルだ。


今回、ゴキブリよりは気持ち悪さで劣るものの触覚が異常に長い小ぶりな未確認生物が現れた。
しかし、こんな小物一匹で深夜0時にいきなり電話をかけるのは迷惑だ。というより夏がやってくるというのに先が思いやられる。コロコロ(←掃除するやつ)のシートを一枚ちぎって机の上に君臨する触覚長々野郎にジワリジワリと接近する。

 

「フッ、ファッっ!!!」

 

居候先で寝ている方々の迷惑にならないよう、声にならない声で身震いしながら格闘する事数分。

 


一人じゃ無理だ。

 


深夜0時。プロフェッショナルの出る幕はないと判断し、他に話を聞いてくれそうな友達に電話。

 

「もしもし、どうした?」
「いや...あのう...」
「ん?」
「フゥー、フゥー、フワッ...!フュァア!!(格闘中)」
「え?」
「虫がッ...!電話このままで!(小声)」
「お、おおう。」
「フュァ!!フュフォッッ!!フー!!!」
「...」
「ちょっと待ってよ。」
「おう。(困)」
「フューーー、ファッ!!!」
「...」
「フスー、スーーー、フーーーヮァッフ!!!!!!!!!(捕獲)」
「...」
「ありがとう。」

 

彼も話したい事があったらしい。訳も分からず数分間男の悶える声を夜中に聞かされた挙げ句「明日早いのでおやすみ」なんて言える訳もなく、そこからアフタートークは1時間程白熱した。夜道に自らの声が響く。

 

一見無駄に感じるような時間が今はとても大切に感じるのです。