うんこみたいな日々

を過ごす。

アルバイトおばあちゃん

小学生の頃、休日は決まって車で15分程のイトーヨーカドーに母と出掛けた。


ゲームフロアの隅には当時大流行していたムシキングのアーケドゲーム。戦うムシ達に目を輝かせながら熱中していたけど、今となってはカブトムシの裏面を見ただけで吐き散らかしてやろうかと思ってしまう。
あれはゴキブリさんの親戚だよね?親戚の集まりで顔合わせてるよね?

 

人は何かを失って大きくなる。

 

ゲームの思い出以外にもCDショップや本屋さんを母と一緒に周った。旅行代理店が最上階にあって、横浜のパンフレットをよく持ち帰った。当時小学生のガキが何故、横浜に惹かれていたのかはよく分からないけどホテルの部屋を眺める時間がとても好きだった。


マクドナルドでおやつを食べた後、食料品の買い物でフィニッシュ。お決まりのショッピングプランだ。


食料品売り場では基本的に母の采配を忠実に守るスタイルでカート係として買い物を支えていたのだが、トースターの焼ける音が聞こえると早歩きで出処に向かった。試食争奪戦だ。サラダや汁物系、店内に散りばめられた様々な試食コーナーの中でもピザは特に人気の商品だ。この争奪戦に参加する年齢層は大体同世代なのだが、たまに食いしん坊なオバサンも混じってたりする。

基本的に2回以上の試食は文字通り試食業界で御法度なのだけれど、ある日、タコハンバーグの試食で販売員のおじいちゃんが「もっと食うか?」と勧めてくれた。

 

「全然なくならないから助かるよ。」

 

余ったタコハンバーグをほとんど焼いてもらって夜ご飯が食べられない程にお腹を満たした。母は笑いながら一つだけ購入。

 

レジで会計を済ませたらビニール袋に詰め込むのを手伝ってその日の気分で売店のたい焼きを買ってもらう。

 

焼けるのを待つ時間、たい焼きができるまでの工程を見るのは退屈しない。ある日も、焼けるのを待ちながら店員さんの動きを観察していた。子供ながらに衝撃の光景を目の当たりにする。

 

おばあちゃんが凄く怒られていた。

 

パートリーダーといったところだろうか、機敏な動きを見せるオバサンの話を「はい!」と聞きながら、コントのようにあたふたして、「動け!」だの「違う!」だの手を叩かれるような勢いでおばあちゃんが指導を受ける。

 

おばあちゃんが新人のアルバイトなのだとすぐに理解。

 

先生に怒られるのすら怖いのに、義務教育を終えて進学、社会に出た後。さらに任期満了まで職務を果たしたであろう年齢になっても10才くらい年下の人間に怒られる社会の厳しい現実に恐ろしさと虚しさを実感した。

 

「がんばれ...!おばあちゃん!」

 

心の中で勝手に応援した。

 

それからはイトーヨーカドーへ行く度におばあちゃんの働く姿を確認する。

 


幾度となく通ったイトーヨーカドーが小学6年の時に惜しまれつつも閉店。地元から離れた繁華街の巨大な商業施設の一部に移転するという形だった。

 

最終日に母と買い物すると友達も家族で訪れていた。閉店間際、正面入口を挟むようにしてスタッフ一同が並んで「ありがとうございました」と頭を下げる。この黄ばんだフロアを踏みしめる事がもうないのかと思うと結構切なかった。イトーヨーカドーを出る。


ニュースで取り上げられる程注目の中、オープンした商業施設を母と訪れた際に移転した様子を伺うためにイトーヨーカドーの食料品売場で買い物して帰った。

 

レジを通ると見慣れた、たい焼き屋を目にする。昔怒られていた新人のおばあちゃんが若いスタッフに手を交えながら仕事を教えていた。

 

あぁ、たくさんのスタッフも移転したんだなと実感。


人生は長い。何かを失っても居場所はある。


またいつかあのイトーヨーカドーを訪れたい。